本研究の対象国であるマレーシアは、東南アジア諸国の中にあって極めて特異的な開発政策を実施した。すなわち政府は、1971年以降マレーシアを構成する最大のエスニック・グループであるマレー人に対する社会政策(「新経済政策」、別名ブミプトラ政策)を積極的な国家介入という方法を通じて実施した。 本研究の目的は、こうした特徴を持つ開発政策の担い手である官僚ならびに官僚システムに関する基礎的な資料を整備するとともに、基礎的な分析作業を行うことにおかれた。特に、1980年代にはいるとマハティール政権の下で従来のイギリス型の官僚システムに変更が加えられ、また民営化政策が実施されるなど、官僚システムに変化が見られた。しかしながら、こうした変化とは対照的には官僚リストなど基礎的資料の刊行が停止され、資料の整備が必須と状況となっていた。 対象としたのは行政機関の中でも重要な役割を果たしてきた総理府、大蔵省、通産省(旧商工省)など経済省庁と、文部省などである。これらの重要省庁に関しては基礎的なデータの収集に一定の成果を上げることができた。 他方、官僚システムに関しては独立以降どのようにして総理府に集中したシシテムが構築されていったかを明らかにすることができた。また、マハティール政権の下で工業化政策策定過程に関する研究成果を公表した。 今後に残された大きな課題は、5カ年計画書、単年度予算などの経済計画の策定、並びにその実施過程を明らかにすることで、政府の「統治能力」を明らかにすることであろう。
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