研究概要 |
1.本研究は,市場に関する新たな理論的枠組みを構築し,それを基盤として資本主義経済に特有な景気循環現象を分析することを目的とする。一般均衡理論が構成する単層集中型市場は,無時間的な均衡状態を記述する,本質的に静態的理論的モデルであり。そのような理論を基礎に動態現象たる景気循環を説明することはできない。2.われわれが基本モデルとする多層分散型市場は,相互に緩やかに連結された限定合理的な経済主体が,多層的な時間構造の中で局所的な知識と自律的判断により,定型的調整行動と非定型的革新行動を同時に実行する個別過程の集積体として構成される。また,市場は,伝統,組織,計画,慣習,定型化などの経済的・非経済的な諸制度により補完されて初めて存続可能なシステムである。3.市場が自律分散システムであるためには,切り離し装置としての各種ストックが各経済主体間の相互作用にあそびを与えなければならない。まず購買力ストックとしての貨幣は財の交換を販売と購買へと分離し,需要制約型経済を形成する。信用・債権・株式といった各種の金融ストックも存在する。他方で,企業内部の長期雇用,在庫,生産容量,設備投資は数量ストックを構成する。自律分散型市場は,各種切り離し装置に埋め込まれている。4.限定合理的な経済主体は,予期せざる変動に対する緩衝の役割を果たす各種ストックを閾値を持つシグナルとして利用し,経済変動にたいして自律的にストックを調整することで適応する。ストックは,調整時間が短期のものから長期のものまで,入れ子型に構造化されている。予期せざる変動が低次の数量調整の限界を超えるとき,価格調整が起こり高次の数量調整にたいするシグナルとなる。つまり,数量調整が多層的であるとともに,数量調整と価格調整は多段階的に作動する。このようにして,経済変数の上方への波動と下方への波動,すなわち景気循環が形成される。
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