APECが目指す開放的経済統合は、(1)協定違反に対して処罰的行動をとらないという「自主性の尊重」と(2)域外国にも関税引き下げ等の成果を適用するという「内外無差別の原則」を揚げている。この第一の原則は、協定違反に対しては処罰もいとわないWTOの姿勢とは異なるものである。今年度は、開放的経済統合理論化の第一歩として、第一の特徴に関してAPECとは異なるWTOが、国際協調に果たす役割について考察した。 国際協調達成にWTOで中心的役割を果たしているのが紛争処理機構[Dispute Settlement Procedure(DSP)]である。多くの非関税障壁は外国からはわかりにくういため、ある国が協定に違反して非関税障壁を高く設定しているかどうかについて国際紛争が多発している。DSPは協定違反があったかどうか第三者の立場から調査し、関係国に協調的解決を促するものであるが、被害を受けた国が協定違反九にに罰則を課す権利も同時に認めている。 今年度は、このDSPの役割を、不完全モニターリングの無限繰り返しゲームの枠組みで分析した。モデルでは、調査依頼を受けたDSPは違反の有無を完全に判明させるとした。その上で、DSPが存在するかどうかで非関税障壁に関する国際協調がどのように変わってくるかを考察した。その結果、DSPにより罰則を適用するのが実際に協定違反が起こったときのみとなるため、均衡における各国の厚生水準が高まり、協調から逸脱する誘因が減少することがわかった。また、協定違反国のみを確実に罰することができるため、罰則はより厳しくなり、やはり協調から逸脱する誘因が減少することが判明した。どちらの効果も国際協調を促進するので、DSPは国際協調を高める役割を果たしていると結論づけられる。今年度得た上記の結果を踏まえ、次年度はいよいよモデルに開放経済統合固有の特徴を組み込み分析を進めていく予定である。
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