研究概要 |
本研究の最初の目的は,「経済学的均衡モデル(一般均衡モデル)の数学的構造」をカテゴリー論的普遍性という立場から明確にするということであった.この目的にあたり,本年度の成果としてあげられるのが「写像の方向性のみに基づく多価写像の不動点定理」という名でまとめられた一連の数学的結果である.経済学的均衡の存在問題が,その最も抽象的な一形態において数学的に不動点定理と同値であることはよく知られているが,不動点定理に対し,あくまで「経済学的」な見地から,どこまでその仮定を弱めることができるかという問題は,すなわち「経済学的均衡モデルが,そのモデルの均衡として社会を描く上での整合性(均衡解が存在しないという事は,公理系全体としてそれを満たす状態が存在しないという事であるから)の要請を満たしながら,どれだけ普遍的(当該モデルを通して語り得る)かという問題に他ならない.これらの結果はすでに経済学的均衡を語る一般均衡モデルよりもいくぶん自由な構造を持った「一般化されたn人ゲーム」に応用され,均衡の存在条件というよりはほぼ特徴付けに近い形の一般的命題が与えられている.(これら内容の一部は,1998.12.2京都大学数理解析研究所で報告発表.講究録に収録.日本経済学会の学会誌Japanese Economic Review,「大阪大学経済学」等にも一部が掲載される予定である.)今後さらに,写像の方向性に関する議論は,抽象凸構造下の議論に一般化され,一般均衡モデルの数学的基礎構造の記述が完成する.続くテーマである「主体間の認識構造」の公理化および「組織の形成を含んだ経済メカニズム」の特徴付け,「社会契約」の公理化と特徴付け(後の二つは次年度のテーマであるが)については準備の域を出ていないものの,前2者については,LearningおよびCoreの理論から,ほぼ接近方法が決定した状態である.
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