研究概要 |
本研究は,日本の少子化の要因である有配偶率低下と有配偶出生率低下のうち,前者とくに晩婚化の原因を探る計量経済分析を行う。具体的には,Keeley(1977,Economic Inquery)らが提案した配偶者サーチモデルの帰結である,結婚相手探索期間(代理変数として初婚年齢)と結婚相手の賃金の相関を,夫婦双方の賃金と結婚年齢を含む個票データを利用して計測した。 配偶者サーチモデルはサーチの便益が配偶者の賃金,サーチの費用が自分の賃金となる枠組で最適探索期間が決定されるものであるが,現実には賃金が高い人ほど配偶者の賃金も高い者を好むという選好の異質性も絡んでくる。そこで,選好の差による男女の賃金率の正の相関を許し,妻の賃金率の内生性を考慮する形で,配偶者サーチモデルの結論が日本の現実を説明するか検証した。その結果,主に次の3点が判明した。 第一に,配偶者サーチの便益に関しては,結婚年齢が高まるほど結婚相手の賃金率が低くなるという点で整合性を欠くことである。第二には,女性の賃金率は,内生性を考えないOLSでは結婚年齢に有意な影響を与えるといえるが,賃金率の内生性を考慮すると結婚年齢に影響を与えないことである。最後第三には,賃金率よりもむしろ,女性の長い労働時間が晩婚化を進めていることである。 結局,配偶者サーチにかかわる変数ついては,妻となる女性にとって結婚相手探索に可能な時間の直接の制約となる労働時間は整合的な効果を与えているが,自己と相手の賃金率に関しては一部しか整合的な効果が認められない。以上から,結婚年齢を配偶者サーチの費用と便益で説明するのは難しい。 ただし,配偶者サーチモデルに登場する変数のうち,ジョブサーチでいえば求人倍率にあたる未婚男女比と賃金の影響が内生性の考慮によって有意でなくなること,さらに上述の労働時間が内生性を考慮しても有意であることなどは,配偶者サーチモデルと整合的な発見といえる。
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