本年度は、世界的な生産パターンの再編過程が、イノベーションによって引き起こされる内生的な経済成長によってどのように説明されるか、という問題を考察した。そのために、2つの中間生産物(製造業中間生産物と生産者サービス)と最終財の3財と、労働と資本の2要素から成る2国モデルを構築した。モデルの概略は以下のようにまとめられる。製造業中間生産物は両国において生産可能でしかも費用をかけずに2国間で貿易できるのに対し、生産者サービスは片方の国(先進国)でのみ生産可能で2国間で貿易できない。ここで、新たな種類の生産者サービスは、先進国で研究開発されることによってはじめて生産可能になる。また、最終財は2つの中間生産物から先進国で生産される。つまり、発展途上国は製造業中間生産物の生産に特化する。研究開発の速度は、生産者サービス企業の価値が、それを所有することによって得られる利潤と資本利得の合計に等しくなるように、内生的に決められる。理論的分析によって、とくに以下の三点が明らかになった。第一に、世界の生産パターンは、研究開発部門の技術的特性に大きく依存する。より具体的に言えば、研究開発部門が充分に労働集約的である場合、世界全体の経済成長によって発展途上国の製造業部門は拡大し、逆に充分に資本集約的である場合、製造業部門は発展途上国から先進国に移転する。第二に、研究開発の速度が上昇すると、先進国の製造業中間生産物部門が縮小する。第三に、研究開発の速度の上昇に伴って、先進国の生産者サービスの生産も減少する。次年度以降は、集積の経済が存在する場合と、研究開発活動と製造業との間に何らかの正の外部性が存在する場合について考察を加える予定である。
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