本研究では、技術の複合的連関の深化、および技術のシステム化が、特許制度や競争政策と如何なる関連をもつかを検討した。特に、漸進的・改良的性格が強いといわれる日本企業の技術革新の特徴を、(1)特許制度や競争政策の制度分析、(2)情報通信産業におけるネットワーク効果の推計、および(3)医薬品産業における特許指標分析、の3種類の研究を通じて検討した。以下、研究成果の概要を述べる。 (1)特許制度や競争政策の分析では、日本の競争政策および特許制度が、技術開発や技術取引に如何なる影響を与えるかを制度的に検討して、望ましい競争政策のあり方を検討した。 (2)携帯電話の普及・拡大は世界的に見られる現象である。この携帯電話ネットワークは、固定電話ネットワークと密接に相互依存しているものと考えられる。そこで本研究では、情報通信産業における規制緩和の動きと競争政策の関連に留意しつつ、需要の弾力性およびネットワーク効果を推計した。その結果、これらネットワークの相互依存関係は無視できないほど大きいことを明らかにした。また接続料金規制において、需要構造を無視した単なるコスト・べースの規制手法だけでは、競争政策上の問題が大きいことを明らかにした。 (3)医薬品産業の実証分析では、後願特許の審査官による当該特許の引用件数(前方引用件数)、審査官による先願特許の引用件数(後方引用件数)、特許請求項(クレーム)の数、出願国数等の指標が、日本の医薬品産業の技術革新パフォーマンスを評価する上でどの程度有効であるかを検討した。出願特許に関する指標で日米主要企業を比較すると、80年代後半から、日米の技術格差は拡大しつつある。また上記指標によってウエイトづけされた特許件数は、日本で上市された医薬品を事前的に評価する上で有効な指標となる。特に、特許に包含される新規化合物の画期性を測る上で、クレーム数は重要な情報となる。また本研究で取扱った特許指標の中で、国内売上高に最も寄与する要因は、前方引用件数であった。
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