今年度の研究課題は、「上海市1995年流動人口調査」の個票を利用し、大都市における出稼ぎ労働者の就業と賃金、生活実態などを明らかにすることである。具体的には、(1)計画経済時代と改革・開放以降の上海市における人口移動の規模と方向、および関連制度の変化、(2)出稼ぎ労働者の全体像と移動の時期・経路、(3)出稼ぎ労働者の就業形態、産業別就業構造、就労時間・勤続・転職、(4)出稼ぎ労働者の賃金構造と賃金関数の推定、労働市場の階層化問題、(5)出稼ぎ労働者の生活実態、(6)出稼ぎ労働者と実家の関係(土地の請負、送金など)、(7)流動人口政策などへの評価と今後の進路、などについて、アンケート調査の結果を基に実証的に分析した。 分析からの主な結論を纏める。すなわち、市場経済化改革の深化に伴い、職業選択の自由と地域間人口移動の自由が大きく拡大した。農村からの出稼ぎ目的の移動者は主として比較的高い教育を受けた若年の男性を中心としている。その大半は独身ではあるものの、既婚者の場合、夫婦ともに移動する割合が高い(47%)。地縁、血縁関係で地域間移動を果たした出稼ぎ労働者は、上海市では主として都市住民に敬遠されている業種または職種で仕事をしている。人的資本が割合有効に利用されていることから労働市場がかなり機能していると言えようが、戸籍や出身地などで賃金が大きく異なっている事実から、現存の労働市場は階層化している可能性が高い。出稼ぎ労働者は送金や農繁期の帰省などで実家と深い関係を保っているが、高学歴の若年層を中心に、都市部に長期滞在する意思がかなり強い。
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