戦略提携は、個々の企業では困難な新技術・製品の開発に伴う巨額の投資や不確実性等を分散させる手段として、主に先進国企業間で一定期間行われるハイテク分野での協力形態といえる。戦略提携には、純粋な民間企業ベースで行われるケースと公的研究機関が民間企業同士の協力関係をコーディネイトするだけでなく技術面・資金面で援助するケースが考えられる。いずれのケースも新技術・製品におけるイノベーションを目的としているが、前者が民間ベースで行われるのに対して後者は企業の経営戦略に加えて国家レベルでのイノベーション政策が含まれる点に大きな違いがある。従来の研究では、両者の類似点、相違点が明らかではなかった。本研究では上記のように区別した上で特に後者のケースに注目した。 後発国における公的研究機関を介した戦略提携には、イノベーションを通じたフロンティア技術へのキャッチアップあるいはその地場産業への拡散という極めて戦略的な政策目的が背景にある。最も代表的な事例は工業技術院を介したVLSI計画である。同様なプロジェクトはその後、台湾のような技術後発国で重視されるようになった。技術後発国の企業は相対的に規模が小さく、技術力、資金面で先進国企業に劣っているため、ハイテク分野への参入戦略としての戦略提携は極めて有効な手段である。ただし、用いられる手段はそれぞれ異なる。台湾では、戦略提携を通じて開発した技術が市場ポテンシャルを有し、それが新規のジョイントベンチャーにより有効に利用できる場合、新たなスピンオフ企業が民間企業として設立される。この方式は、日本には存在していなかったものである。今後は、このような比較分析を通じて技術後発国への政策的なインプリケーションを明らかにする予定である。
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