研究概要 |
炭素税や排出権取引などの経済的インセンティブを用いた環境政策手段について全般的に検討した。炭素税はデンマーク,フィンランド,オランダ,ノルウェー,スウェーデンの5カ国で導入されている。詳細な文献調査をおこなった結果,これらの国家が導入している税によってどのような効果があらわれているかは十分に判明していないこと,これまでの研究例はマクロ経済モデルを用いたシミュレーションか,単なる制度の紹介であることがわかった。数値的に結果を評価でき,なおかつ制度のパフォーマンスを国際間で比較できるフレームワークが必要であることから,税システムの環境パフォーマンスという概念の具体化と操作可能なモデルの開発に着手した。 排出権取引も経済的インセンティブによる地球温暖化対策として注目されているが,国際的な炭素排出権取引制度はまだ立ち上がっていない。そこで,米国環境保護庁が硫黄酸化物の規制について導入している排出権取引き制度が参考になる。そこでこれについての調査をおこない,実際にオークションに参加して許可証を購入し,制度に附随する取引費用の低減過程について分析を加えた。その結果,EPAのシステムにおいてはブローカーの発達による取引費用の低減とモニタリングシステムの導入による取引費用の上昇が相殺的に発生していることが判明した。 また,炭素税の税率の根拠として使われる可能性を持つ外部不経済あるいは外部経済を金銭的に評価する方法についても研究をおこなった。近年,マーケティングの分野で発展してきたコンジョイント分析の方法に着目し,これを油濁被害の防除によって得られる便益の推計に適用した。その結果,東京湾における油濁被害の防除に対する限界支払い意志額を,レクレーション,漁業,健康,干潟といった防除される被害の対象別に推計することができた。
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