本年度はまとめの年度なので、前年度に収集した史料の補足史料を収集し、収集した史料の分析を進めた。特に富山県新湊市の宮林家と大阪府貝塚市の廣海家の史料は詳細なものを収集できたので、それら2家の消費生活の検討を主軸に、それらとの比較のため、都市近郊地域として東京都の富沢家と神奈川県の原家、農村地域として岩手県の高橋家と秋田県の大西家も取り上げ、さらに従来研究史上で取り上げられた自作農6家の消費生活とも比較して、明治初年の文明開化が民衆生活に与えた影響を、地域間格差・階層間格差の視点を入れて分析した。 分析の結果以下のような結論を得た。1.文明開化の影響を端的に表現する舶来品の普及は、近代的輸送網の形成と大きな関連があり、地方においては都市へのアクセスが容易な地域ほど舶来品の普及は早かった。2.同じ地域でも有力資産家層と自作農層では文明開化関連支出の程度に大きな差があり、それは以下の3つの側面からなっていた。第一に、砂糖・石油・蝙蝠傘など単価は安くて量の多少にかかわらず使い道のあるものは、購入量は異なるものの資産家層も自作農層もいずれも購入した。第二に、銀時計・眼鏡・毛織物など単価の高いものは、資産家層でしか購入は見られなかった。第三に、新聞購読と舶来綿布購入は、単価は割と低めだったが、資産家層は支出して自作農層は支出しなかった。その背景には、「消費生活者」たる資産家層と「生産者」たる自作農層生活様式の違いがあったと考えられる。3.明治10・20年代に地方資産家の内国勧業博覧会見物を兼ねた旅行が多く見られたが、それが舶来品消費の地方への普及の先駆的役割を果たした。
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