本研究の目的は、明治以降の日本の都市における経済政策としての土地政策の史的展開過程を、特に土地税制に焦点を当て、実証的に分析していくことにより、現代日本の都市の土地問題の原点を明らかにしていくことである。そして、この度は、明治末の宅地地価修正事業、ならびに、大正末から昭和初期にかけての土地賃貸価格調査事業と「地租法」の制定についてを主要な研究対象とした。尚、史・資料蒐集の都合もあり、まずは、両政策の概観と日本経済史上の位置付けなどマクロ的な分析を行うこととした。今後、この作業と平行して、蒐集した史資料に基づき、可能な限り、各政策のミクロ的な部分についても分析を行っていくつもりである。 地租改正時以来、都市における「売買地価」と「課税対象としての地価」の著しい乖離の是正を求める声はあったが、戦争などによる税率の変化はあったが、地価は手つかずのままであった。その後、日露戦争後の税制整理の一環として明治44年に「宅地地価修正法」が成立し、地価は賃貸価格の10倍に白紙改訂された。更に、大正末の一大税制改革の一環として昭和6年に「地租法」が制定され、地租は、全面的に賃貸価格に課せられることになった。 「宅地地価修正法」ならびに「地租法」の制定のいずれの政策も、長期的な政策展開の視点からみると、都市の土地問題を積極的に是正していくために採られた政策であったとは言い難いと言える。政府は、土地税制、特に保有税の強化により、地価抑制を図るという政策は採っていなかったのであった。課税対象としての地価の是正は、いずれの政策の場合も、一大税制改革の一環としてなされており、都市の土地税制そのものは、積極的な経済政策・社会政策の対象にはなっていなかったのであった。
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