多くのアジア諸国が深刻な景気後退局面にある中、急激に成長と遂げ、潜在規模の大きさが期待される国がある。中国・インドがそれであり、とくに中国は日本や欧米から多大な投資を吸引してきた。だが、そうした期待とは裏腹に進出した企業からは販売活動をめぐってさまざまな問題が指摘されている。本研究はそのうち債権回収問題に焦点をあわせて日系進出企業の対応を分析した。市場成長の一方で、中国では企業の新規参入が相次ぎ、供給が需要を凌駕する状態になった。それが流通業者からの回収困難性をもたらしてる。また、中国人営業要員に債権回収に対する意識が薄いことが問題の一因でもある。この状態に対して、多くの企業は決済方式の引締めという取引様式面での対応をはかってきたが、これが受注ベースのダウンという副産物をもたらした。一方、回収問題をそうした市況悪化ではなく、営業要員の教育・管理という社会体制問題と位置づけている企業が少数ながら存在する。こうしたケースに注目したところ、回収実績と売上実績は営業要員の行動によって媒介されており、市況悪化以前から販売・回収双方に関して十分な教育・訓練を行い、業績評価に双方を基準として組み込んできたという特徴が抽出された。教育・訓練は回収意識を高揚させるだけではなく、同時に販売を拡大させるトレードオンとしての特徴を備えており、中国販売活動の基盤となる重要変数であることが確認された。一方、多くの企業は成長期に機会損失回避のため、売上実績の偏重した業績評価を行い、販売情報の収集を営業要員に促す教育への着手が遅滞し、結果として急激な市況変化と齟齬をきたしたことが明らかにされた。本年度は、中国における日系企業の問題点の所在、ならびに対応ポイントが営業局面にあることが実証された。次年度は、これをふまえ現地営業組織の編成原理を解明していくつもりである。
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