本研究は、日本自動車産業のブランド戦略をその歴史的変遷およびブランド間関係に焦点をあて分析したものである。ブランド自体は古くから存在するが、ブランドそのものに焦点をあて集中的に研究されるようになったのは1980年代になってからであり、その変遷やブランド間関係という体系的管理に関する研究は少ない。その意味で自動車というブランド戦略の代表的産業において網羅的にブランドを捉えようとする本研究は、ブランド研究に新たな一石を投じるものだと思われる。具体的には、戦後の自動車産業を牽引してきたトヨタと日産に焦点をあて、日本の自動車市場におけるブランド戦略の推移を、またホンダやマツダに対する分析からニッチャー企業のブランド戦略を明らかにした。分析の結果、企業ブランドが主流を占めると言われる日本企業の中で自動車産業は早くから個別ブランド戦略を展開してきたこと、ブランド戦略本来の目的である棲み分けではなく互いに同じポジションでブランドを展開することが結果的に自動車市場拡大に寄与したこと、またGMに象徴されるニーズ対応型ブランド戦略ではなく価格-品質水準による階層的なブランド構造を展開したことなど、日本の自動車産業にユニークなブランド戦略が示された。しかし、これらの戦略は戦後の高度経済成長を前提としたものであり、バブル経済崩壊以降、日本の自動車産業はブランド戦略の転換に迫られている。こうした状況にいち早く対応し成長を遂げているのがトヨタであり、今日の市場環境においてなぜトヨタの戦略が功を奏したのか、また他の自動車メーカーはどのようなブランド戦略を展開すべきかを明らかにすることが、今後の課題として残されている。
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