本研究の目的は、日本企業における新素材の開発プロセスの組織的特徴を、(1)素材ないしは装置産業における既存研究との比較を通じて、あるいはかかる産業と対置される組立産業における既存研究との比較を通じて明らかにし、(2)新たに複数の事例分析を行うことによって、新素材開発プロセスの組織的特徴やその成功要因を抽出し、かかるプロセスのモデルを構築することにある。我々はかかる目的を遂行すべく、日米欧における新製品・新技術の開発に関する既存文献の考察を行った。その研究成果は、本報告書の研究発表欄に記載されている2本の論文として結実している。第一論文「新素材開発プロセスの特徴」では、我々がこれまでに進めてきた東レにおける人工皮革と炭素繊維の開発事例と、文献研究において考察した組立産業における新製品開発プロセスとの比較を通じて、新素材開発プロセスそれ自体やマネジメント要因の特徴を分析した。第二論文「装置産業におけるイノベーション・プロセスの比較研究」では、文献研究から得られた石油精製や石油化学、製薬などの新製品および新製造工程の開発プロセスの特徴とそのマネジメント要因を明らかにした上で、それらと上述した2つの新素材開発の事例とを比較し、新素材開発プロセスそれ自体とマネジメント要因の特質・差異を分析・検討した。 また我々は、新素材開発の新たな事例分析も現在進めている。現時点では論文というかたちでは結実していないが、本年度の科研費支援のもとで、夜光塗料製造企業の根本特殊科学(本社東京)の事例研究を行った。その研究成果は次年度の実績報告書の中でまとめたいと考えている。さらに、次年度には発光体製造企業の日亜化学工業(本社徳島)の事例研究も進める予定である。いずれの企業も中堅・中小規模の企業であり、企業規模という基準で、我々がこれまでに展開してきた大企業における新素材開発との比較分析が可能になると考えている。
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