本年度は、シンガポール政府が掲げる人材育成の基本方針とその政策や支援策の内容を確認し、さらにそれら施策に関する日系企業の関与の可能性について確認した。同国政府が建国以来表明してきた国としての競争力をその人材拡充に求めるという方針は、一定の経済発展を達成した今日でも堅持され、人材育成をめぐる政策は拡充と改善が続けられている。競争力を高めるべき特定の職能領域を規定するものとして、アジア地域のビジネス・サービスセンターとなるという構想とそのベースとなるIT(Information Technology)能力を高めるという構想があげられる。これらの目標達成は国内労働市場が小さいことと関連して、外部からの人材調達と国内の労働力再開発や職業関連教育の強化を通じて試みられている。国内労働力の再開発は、すでに就職している労働者の為のスキル再開発プログラムへの公的機関からの資金援助や離退職者の再雇用促進プログラムの運営などによって行われている。また、職業関連教育の強化については、中等教育終了者むけの職業教育の改善と拡充が、コンピューター関連を中心に進められている。シンガポールの産業政策をめぐる特徴として工業化過程を通じて見られたものに、政労使による三者構造と外資の技術力活用があげられるが、前者は依然として人材育成の仕組みにもいかされていることが確認された。一方、人材開発に関する外資や外国政府との協力体制に関しては本年度の調査では確認しきれなかった。日本政府の資金援助による人材開発補助は、シンガポールが経済発展し、ODAによる援助対象国から外れることによって行われなくなっているが、民間を通じての人材開発協力は少数ながら行われている。しかしながら、そうした試みの現地日系企業一般への普及可能性、企業の人材開発戦略との関連の程度、政府や関連機関との連係の存在やそれから受ける影響などについては次年度の課題として残った。
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