研究概要 |
今年度は,まず監査人の独立性についての分析を中心に実施した。第一に,アメリカの公認会計士による「保証業務」と呼ばれる新たなサービスの展開にともなって,これに従事する者の独立性と監査人の独立性との間に考慮すべき重要な問題が存在し得ることが明らかになった。 「保証業務」は,公認会計士の職業専門家としての資格・能力を拠り所にして展開されるものである。このため, 「保証業務」の独立性についての考え方と監査業務に際してのそれとが湘互に影響を及ぼし合う可能性もあり,より詳細な分析が必要であると考えている。 第二に,フランスの商事会社法,監査基準および職業倫理規則等を分析することによって,フランスの監査人たる会計監査役に対して,独立性の保持が極めて厳しく問われていることが明らかになった。例えば,特定の会社における会計監査役の選任に当たって,法によって定められた欠格事由に違反した会計監査役に対して刑事罰が課せられる。こうしたフランス監査制度の考え方は,アメリカの監査制度の思想とはやや異なるものであるように思われる。こうした違いが生じている理由について明らかにする必要があると考えている。その上で,わが国の監査機能の向上に対して,いずれの考え方がより適合するのかについて検討することになる。 一方,監査コミュニケーションについては,フランスの監査基準等の検討により,そこに監査人の役割や職務についての教育・啓蒙的な記述が盛り込まれていることが明らかになり,これが監査関係者間における監査についての合意形成に有効であることが明らかになった。また,フランスでは,会計監査役の職務の有効性を確保するために,経営者とのコミュニケーションが重視されていることがわかった。なお,監査人と監査利用者とを直接結ぶ唯一の手段である監査報告書の意義およびあり方についての検討が,今後の課題として残されている。
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