本年度は、監査保証論の研究視座を明確にするため、監査論の論理体系の中で監査保証論がどのような位置づけにあるか、隣接する領域との相互関係はいかなるものであるかを認識することを主たる目的とするものであった。その結果、監査保証論は、監査人が自己の結論としての監査意見を形成し、これを保証するに至る過程を適正性命題の立証過程として認識する先行研究を基礎とすること、また、この過程において監査人は、命題-証拠-結論という思考を繰り返しながら自己の意見を形成する中で、これに対する確信を獲得していくこと、すなわち保証を内形化していくことが根底にあることを確認した。したがって、監査保証論は、監査命題論、内部統制論および試査理論、監査証拠論、心証形成論、監査報告論という領域と接しており、さらにこれらを包括する形で論理学のロジックを援用することが可能となることを得た。特に、監査保証生成の中核である証拠論については、論理学による「妥当な論証」概念を監査理論における「合理的論証」概念に導入することにより、証拠に対する新たな視角をもってアプローチすることが可能であること、すなわち合理的論証を証拠として監査意見およびこれに対する保証が生成されることが監査保証論の基盤であることを得た。本年度の研究では、監査理論の中で未確立である監査保証論の構図をこのように描くことにより、今後の研究の方向性を明確にすることができたことが最大の収穫である。
|