本研究の主たる目的は、日本における企業年金会計基準の設定に対して、理論的・実証的根拠となりうる基礎を提供することにある。そのために、米国・英国をはじめ、国際会計基準などの基礎的考え方について比較分析を行うこと、ならびに企業年金会計情報を利用した実証分析を行うことが具体的な研究テーマである。平成10年度は主として各国の制度分析を中心として研究を進めた。 国際会計基準第19号「退職給付」や日本の国内基準は、ともに米国のSFAS87号を模範としていることが分かった。ちなみにオンバランス方式について、国際会計基準・米国基準・日本基準で比較してみると次のようになる。第1に国際会計基準は、年金資産と年金負債(PBO)を比べてその差額について、オーバー・ファンディングの場合にはネット年金資産(一定の限度額がある)、アンダー・ファンディングの場合にはネット年金負債としてオンバランスする。つまり「ネット&対称方式」を採用している。第2に米国基準は年金資産と年金負債(ABO)を比べて、ネット年金負債の場合にはオンバランスするのに対して、ネット年金資産の場合にはオフバランスとしている。その意味で「ネット&非対称方式」と呼ぶことができる。第3に日本基準は国際会計基準と同様に年金負債をPBOで評価してネット年金負債をオンバランスするが、ネット年金資産はオフバランスである。つまり米国流の「ネット&非対称方式」に分類されるが、年金負債の評価尺度は国際会計基準流のPBOを採用しており、両者がミックスされた形になっている点に特徴があるといえよう。
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