本研究では、昨今、様々な場面で注目を集めている年金会計を分析対象とした。第1のステップとして、「企業年金会計先進国」であるアメリカの制度分析を実施した。続いて、米国の実証研究のレビューを経て、我が国の年金会計データを用いた実証研究へと進んだ。年金会計基準が提供する会計情報は投資家の意思決定に資するのか否か、という意思決定有用性の観点からいくつかの実証的分析を試みた。それによって、制度改革直前の時期において、実証的アプローチを通じた新制度の評価をしてみたいと考えたからである。具体的には、米国のSEC基準の連結財務報告を行っている日本企業(金融・保険業を除く)をサンプルに選びリサーチを行った。対象期間は平成3年度から平成9年度(平成10年3月期まで)の7年間である。モデルとしては、株価を被説明変数とした多重線形回帰モデルを用いた。年金ストック・ファクターの分析では、株式市場が年金資産・年金負債を企業価値増減要因として評価しているというファインディングを得ている。また年金フロー・ファクターの分析では、第1に年金費用はValue-relevance(価値関連性)を有している。第2に株式市場は年金フローの各構成要素を同質的には評価していない。この点から、わが国の新年金会計基準における年金費用構成要素の情報開示規定には正当性があるという結論を得ることができた。
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