研究概要 |
本研究は,金融の自由化・国際化によって出現した金融主導型の経済環境における伝統的な企業会計システムの限界を克服するために,金融経済取引の認識・測定システムとしての公正価値会計システムを構築することを最終的な目標としている。この研究目的に照らした基本的な研究課題は,事実関係システムとしての金融経済的取引の内部構造原理の解明,かかる内部構造原理に基づく公正価値会計システムの設計,並びにその結果を伝達するための包括的企業報告モデルの展開にある。そこで,まず企業の経済環境の変化が企業の資産負債構成にどのような変化をもたらしたのかを個別決算データに基づいて検証した。東証・大証1部上場の1998年3月決算会社(証券金融を除く)1053社の総資産に占める金融資産の割合は平均で5割を超え,全業種の3分の1はこの比率が6割を超えている。また,製造業であっても金融資産比率が80%を超える会社が存在する(論文「経済社会の変容と企業の資産負債構成の変化」投稿予定)。従って金融資産を公正価値で評価しなければ企業実態を正しく把握できず企業価値の分析ができないという状況が存在していることを浮き彫りにした。次に,かかる状況を改善するために各国で提案されている包括利益報告の比較分析を行い,将来のディスクロージャーの在り方を検討した。欧米諸国の研究では包括利益を計算表示するための計算書として拡張損益計算書の形式を踏襲する財務業績計算書が提案され,その記載様式については情報利用者の意思決定への役立ちという観点から情報の予測価値と企業活動の機能に基づいた記載区分(「操業活動」・「財務活動およびその他の資金調達活動」・「その他の利得および損失」)が行われている(「包括利益をめぐるディスクロージャーの新しい方向」『會計』(森山書店)投稿中)。次年度は公正価値による経済活動の測定モデルの構築に焦点を当てる。
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