本研究の第一の目的は、一般化された全曲率を用いて、「微分幾何学的な特異点」を許容した空間、具体的には、piecewise Riemannian 2-manifoldという離散的な特異点を持つ位相曲面の大域的構造を特徴付けることであった。平成10年度には、このテーマに沿った研究の成果として、筑波大学の川村一宏先生との共同研究により次の論文をまとめた。Note di Matematicaに掲載の"The existence of a straight line of piecewise Riemannian 2-manifolds"及びTopology and its Applicationに掲載の"Total excess and Tits metric for piecewise Riemannian 2-manifolds"である。これらの論文においては、非コンパクトなpiecewise Riemannian 2-manifoldに対する全曲率と無限遠での広がり方の関係が示されている。特に、前者では、空間が直線を許容するための条件が全曲率を用いて表されており、後者では、理想境界の直径と全曲率の関係が示されている。 また、平成11年度には複体の構造を持つpiecewise Riemannian 2-polyhedronに対する全曲率に関する研究を主として行った。この研究は、熊本大学の伊藤仁一先生との共同研究である。まず、完備・非コンパクト・有限連結・局所有限なpiecewise Riemannian 2-polyhedronに対し、全曲率の定義として、2通りの定義(弱い定義と強い定義)を与えた。強い定義は、十分大きなコンパクト集合の補集合の各連結成分を構成する面が、ある意味でリーマン的であることを規定しており、リーマン多様体の場合と類似の結果を得ることができるが、弱い定義ではいろいろな反例が得られることがわかった。また、強い定義のもとでも、Bonnesen型の等周問題については、ある条件の下ではリーマン多様体の場合と類似の結果が成立するが、一般にはそうとはならない反例を見つけることができた。これらの結果については、現在まとめているところである。
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