研究概要 |
本研究は,大場清氏(お茶の水女子大学理学部)との共同研究である. リーマン面上の1点に2位の極をもつ有理型微分,すなわちダイポールの,積分の多価性を位相幾何的に記述することによって,リーマン面のモジュライの非自明なサイクルを可視化し,森田・マンフォード特性類を理解することを目標として研究を開始した. 平成10-11年度は,ダイポールのモジュライの佐藤グラスマン多様体への埋込について調べることを課題としている.これは「森田・マンフォード特性類の分類空間は何か」という問題意識に促されてのことであった. 平成10年度はこの研究の基礎を固める作業を行った. 第一に,リーマン面上の有理型微分の積分の多価性を「帯分割」のアイディアにより系統的に記述することに成功した.このアイディアの本質的な点は,積分値の偏角を固定して有理型微分の積分路を指定するところにある.これにより,平成9年度幾何学シンポジウムで発表した,有理型微分の「線型ポアンカレ双対」の構成をより簡潔かつ透明にすることができる.特にダイポールの場合に限定すると,そのモジュライが「区間置換型平行2n辺形」の配位空間によって分岐的に被覆されることが証明される.このとき超楕円曲線上の不変ダイポールが「対辺型平行2n辺形」にちょうど対応していることも明らかになった.また,「帯分割」により,我々の研究とベーディッヒハイマー氏やギディングズ氏・ウォルパート氏の仕事との関連もより明解になった. 第二に,射影構造のダイポールによる定式化に成功した.これにより,射影リーマン面のモジュライを周期写像のシンプレクティック・リダクションとみなすことができる.
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