第1の柱である純粋数学の確率過程論の研究について:昨年度に、実数値の連続(局所)マルチンゲールが一様可積分マルチンゲールになるための必要十分条件に関して、(私の知る限り)知られている結果をすべて一般化もしくは精密化した定理を導いたが、今年度はマルチンゲールにジャンプがある場合も、ジャンプが有界であればやはり同様の定理が成り立つことを示した。 第2の柱である数理ファイナンスへの応用について:株価のランダムネスの源泉は、(1)企業の業績情報、(2)市場参加者が多数いること、(3)市場参加者が互いの戦略を読み切れないこと、の3点あると思われるが、不確実性の下での均衡理論がうまくモデルに取り込めているのは(1)のみであるように私には思われる。そこで、今回は(3)にスポットを当てた、ある意味ではゲーム論的な均衡モデルを考えた(一橋大商学部ワーキングペーパー)。このモデルから導かれる株価変動の確率過程は、投資家のリスク許容度が市場全体でどのように分布しているかによって決定される。いくつかのケースでは明示的に計算することができ、例えばどの投資家のリスク許容度も同一の場合はボラティリティが定数の幾何ブラウン運動(ブラック・ショールズ・モデル)が得られることを示した。大きな投資家(測度が正)と小さな投資家(測度がゼロ)の両方が存在する状況をモデル化できるが、大きな投資家が存在する場合は存在しない場合よりも市場が不安定になり得ることも、モデルの帰結として示すことができる。
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