研究概要 |
適切含意の論理の代表的な体系Eの含意断片(論理記号として含意だけを扱う体系)については,すでにいくつものモデルが知られている.その中でもUrquhartによって考案された「半束」と「Kripke流の可能世界集合」を組み合わせたモデル(ここでは「Uモデル」と呼ぶ)は,適切含意の直感的な意味を自然に反映した優れたモデルである.公理系EがUモデルに対して完全であること(すなわち,どんなUモデルにおいても真になる論理式は,必ずEで証明できる)は従来知られていたが,本研究では,この完全性を以下の形に強めることに成功した:公理系Eは線形Uモデルに対して完全である(すなわち,可能世界間の到達関係が線形順序であるようなどんなUモデルにおいても真になる論理式は,必ずEで証明できる).この完全性の証明は,以下の方針でおこなわれる.まず従来のシーケント計算の体系を拡張して「構造化されたシーケント」を扱う体系を導入する.そしてそれが線形Uモデルに対して完全であることを示す.さらに,その体系で証明できる構造化されたシーケントに対して,それを適切に翻訳して得られる論理式がEで証明できることを示す.この翻訳によって,Eが線形Uモデルに対して完全であることが示される. 以上の結果を含意以外の論理記号をも含む体系に拡張できるかというのは,来年度の重要な課題のひとつである.もしもそれが解明されれば,モデルの線形性が単に含意断片を扱っていることに由来しているのか,それとも適切含意論理の本質的な性質を表しているのかが明らかになり,適切含意論理の意味論に関するひとつの有用な情報を得ることができる.
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