本年度は、微分方程式の漸近挙動を調べる上で新しい方法になると期待されているくりこみの方法について、簡単な常微分方程式を通して考察した。Chen-Golednfeld-Oono等によって提唱された摂動論的くりこみによる方法と、Bricmont-Kupiainen等によって提唱された構成論的くり込みによる方法を比較して、その特徴をある程度わかりやすく整理することができた。その成果は、第20回若手発展方程式セミナー報告集pp.1-20で発表した。それから予想されることは、以下のように要約される。観測者の都合に応じて導入された時間スケールに応じて、摂動論的くりこみの方法を形式的に適用することによって解の漸近挙動を記述していると思われる方程式の候補者を得ることができる。それらの方程式は、対応する時間スケールの下で構成論的くりこみの方法によっても作られるが、その方程式に対応するくりこみ写像が、安定な固定点を持つ場合には解の漸近挙動を記述していると思われる。しかしながら、この方法がどんな場合に正しい結果を与えるのかということはまだ完全には理解できていない。彼らがこの方法を適用している際に、前提としている普遍性の概念、つまり、漸近挙動は解の初期状態の詳細に依存しないということを数学的に表現することが重要であると思われる。以上述べた成果を踏まえて、11年度は、中心多様体の理論の観点からくりこみの方法を研究していく予定である。
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