本研究では、太陽コロナ中を伝播していると予想されているアルフベン波の存在の有無をスリット分光観測によりつきとめることにある。本年度はそれを可能にするマルチスリットの製作とデータ解析ソフトウエアの開発環境の整備にあてられた。マルチスリットの開発と平行してシングルスリットの観測を行い、その結果をAstrophysical Journal誌に発表している(Hara&Ichimoto 1999)。この研究では太陽コロナの輝線スペクトル観測から、温度幅よりも広がった輝線幅(温度幅+非熱幅)に注目し、コロナの磁気構造に対する非熱幅の変化を詳細に調べた。その結果、非熱幅の一部が太陽コロナ磁気構造の視線方向に対する向きによって異なることが分かり、それがアルフベン波の性質から予想されるものと一致していることを指摘することができた。ここから推定されるアルフベン波の速度振幅は3-5km/s程度である。この観測では非熱幅を評価する際にコロナの温度を輝線特有の形成温度と仮定して用いていたが、その後に行った地上のコロナグラフのスペクトル観測装置とSOHO衛星に搭載されているEUVスペクトル観測装置との共同観測により、この仮定の正しさが示された。この共同観測の成果については英国の研究者とともにAstronomy & Astrophysics誌に投稿し受理されている(Harra et al.1999)。マルチスリット製作については試作を終え、単体試験により試作品の問題点の洗い出しが終了した。来年度から本観測を行い、得られたスペクトルからコロナ中を伝播していると予想されているアルフベン波の存在の有無について結論に到達できるものと考えている。
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