今年度は一般化されたチャーン・サイモン(GCS)理論の量子化についての研究成果をあげた。チャーン・サイモン(CS)理論は3次元でのみ定義され、ゲージ場だけを含むのに対して、GCS理論はその代数的性質を保ったままスカラー場、反対称テンソル場、フェルミオン場を加え、一般次元で定式化できるように拡張されたものである。この理論はポアンカレ超対称性ではないが、ゲージ対称性を拡張した極めて大きな超対称性を有しており、4元数形式を用いることにより通常のCS理論の代数構造が明白に表される。GCS理論は特定のゲージ代数を選ぶことにより、古典的には2次元ないし4次元において位相的重力理論と結び付けられているが、その際にはスカラ一場の凝縮の有無が重要な鍵となっている。そこで、量子論的な性質を調べることに興味が持たれるが、理論が提唱された当初より量子化は容易な問題ではないことが知られていた。 今回明らかにした点の第一はこの理論はスカラー場の存在が鍵となって無限階質量殻上既約という極めて特殊な性質を持つことである。そこで、バタリン、ビルコフィスキー、フラトキンらによる質量殻上既約な理論に対する量子化手法を利用して量子化を行った。その際には正則性条件の破れという別の問題もあったが、自然な拡張を行うとうまく量子化できることを明らかにし、分配関数が位相的性質を持つことも示した。また、量子化に際しても4元数形式が代数構造の簡単化に大きく寄与することもわかり、4元数がゲージ理論の中で形式以上の意味を持ちうるかどうか興味が持たれる。これまでにスカラ一場の凝縮が量子論的にも特殊な役割を果たすことが見えてきているが、今後は位相的重力理論との関係も含め、より具体的な量子論的性質の解明を目指したい。
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