1 格子色力学の計算に関して:量子色力学におけるカイラル対称性の振舞および実際の観測量と密接に関係した、実時間スペクトル関数を、ユークリッド格子上の観測値から構成する方法を確立した。有限温度における解析の準備として、本年度は零温度において実際の格子上で測定を行い、スペクトル関数を上記の方法を用いて解析し、初めて量子色力学におけるスペクトル関数を格子上で求めることに成功した。また、その求められたスペクトル関数が、実際に零温度において測定可能なベクトルチャンネルにおいては、測定値とよく一致しており、この方法の有効性が確かめられた。この成果をまとめた論文は近く投稿予定である。 2 Disoriented Chiral Condensate(DCC)生成の問題について:超相対論的重イオン衝突におけるDCC生成においては、衝突する重イオンが電荷を帯びているので、そのために生じた電磁場の影響があるはずであるが、通常はその影響は無視できるほど小さいと思われてきた。我々は、その衝突の瞬間に生成される電磁場がアノマリーを通じて中性パイ中間子場と結合するということに着目し、実際にRHIC等での超相対論的重イオン衝突において実現されると考えられる条件をシミュレートすることによって、その効果は極めて大きく、衝突面をはさんで上下にそれぞれ、カイラル空間において逆向きに配位したDCCを生成する傾向があるということを、数値計算及び解析的議論によって示した。また、一般的な予想とは逆に、DCC生成は、重イオンの正面衝突よりも、衝突パラメーターがある程度有限である衝突において、より起りやすいということも示した。
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