研究概要 |
半古典近似による周期軌道理論に基づいて有限多体系の一粒子スペクトルの有する殻構造の性質を調べているが、今年度は八重極変形を加えた非可積分キャビティ模型と可積分な回転楕円体キャビティにおいて周期軌道分岐が殻構造形成に果たす役割についての詳細な解析を行ない、それぞれ論文にまとめた。周期軌道の分岐は径路積分に対してコヒーレントな寄与をもたらすためその準位密度に対する寄与を著しく増大させるはたらきをもつことが理論的に示唆されるが、上記の模型に基づく解析によりそのことを明確に示すことができた。また、より現実の原子核やマイクロクラスターに近いポテンシャルを扱うことのできる幕関数型ポテンシャル(V∝r^α)を考え、殻構造形成とその半古典的理解についての研究を進めている。これはWoods-Saxonポテンシャルをよくフィットし、またスケール則によって古典位相空間の性質がエネルギーに依存しないという解析上の利点がある。球形の場合、α=2(調和振動子)からαの値を大きくしていくとSU(3)対称性のやぶれにともなって殻構造は弱まっていくが,あるαの値において新しいタイプの殻構造形成が見られる。これはαの変化にともなう円形周期軌道の分岐に対応して形成されていることが分かった。さらに、四重極変形を加えた場合についての解析を行なった。超変形殻構造に主要な役割を演じる8字型軌道は短軸に沿った線型軌道からの分岐によって形成されるが、αの値が大きくなるにつれてこの分岐のおこる変形度は小さくなる。系の構成粒子数が大きくなるほどαの値は大きくなることから、重い系ほど超変形の変形度が小さくなることが示唆される。実際Dy領域とHg領域の超変形状態ではHg領域の変形度の方が小さいことが知られており、上の結果はこの現象を理解する上での有力な候補ではないかと考えられる。
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