我々の宇宙はビッグバンモデルによって記述されると信じられている。ただし、この描像には避け難い問題が存在する。初期特異点の問題がそれである。インフレーション理論においても状況は同じである。ほとんどの人は、この問題が量子重力理論によって解決されると期待している。本研究の目的はこの問題と宇宙の構造形成の問題とを結び付けて考察することであった。現在、量子重力理論の候補としては超弦理論しか存在しない。そこでこの理論の中で、初期特異点の存在しないような宇宙モデルを研究することから出発した。弦理論における量子補正を考慮したモデルの線形安定性を調べることで、新しい種類の不安定性を発見した。さらに詳しくモデルを調べることで、新しい宇宙の創世の機構を明らかにした。それは、次のようなものである。宇宙には始まりがなく無限の過去から存在する。無限の過去において、宇宙は平坦で、スカラー場が凝縮していた。やがて、そのエネルギーがスカラー場の運動エネルギーに転化し、宇宙の膨張を促す。時間と共に急激な膨張期、すなわちインフレーション時期、となり現在の銀河の種となる揺らぎの生成が起こる。その直後、不安定領域に進入し、爆発的にブラックホールが生成され、プランク時間で蒸発する。開放された熱がビッグバン宇宙をつくる。その後は、輻射優勢時期に入り、元素合成が進む。物質優勢期に銀河などの構造ができあがる。この描像は、ホーキングによる無からの宇宙の生成に代わりうるものであり、もし正しいということが観測から証明されれば近年で最も重要な発見となるであろう。今後は、さらにこめシナリオの詳細な研究を続ける予定である。
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