重力を含む統一理論として期待されている弦理論は現在のところ摂動論的に安定な真空のまわりでの摂動論という形でしか定式化されていない。それらの真空は無限個あり、理論の非摂動効果が真の真空を決定していると考えられる。したがって弦理論を非摂動論的に定式化し、理論の真の真空を決定する必要がある。1996年12月に私は石橋延幸氏、川合光氏、北沢良久氏と共同で弦理論の非摂動論的な定式化の候補としてIIB行列模型を提唱した。本年度はこれに関連した研究をいくつか進展させた。 まず、この模型では時空は行列の固有値としてダイナミカルに生成されるので、固有値分布のダイナミクスを調べることが重要である。私は西村淳氏と堀田智洋氏と共同でIIB行列模型のフェルミオンの自由度を落としたトーイモデルについて固有値分布のダイナミクスを把握することに成功した。これはIIB行列模型の場合を調べる際の雛形になり得る。 また、関連した模型として、IIB行列模型にある射影を施して得られるUSp行列模型をその提唱者の一人である糸山浩氏と共同で調べた。この模型はtype I'理論をもとに定式化されていると考えられている。我々はWilson loop 対するSchwinger-Dyson 方程式からtype I'理論に合う描像が確かに得られることを示した。この研究はこの模型の無矛盾性を示唆するとともに、今後の解析の基礎となるものである。
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