平成10年度は、パリティ非保存効果の大きな増幅が予想される原子と準位について実際に測定し、永久電気双極子モーメントの測定対象となりうる原子や準位の選定を行うことを目標に進めてきた。特に希土類原子は、電子準位が込み入っており、逆パリティ準位の間隔がエネルギー的に非常に接近しているケースが多い。そこで、希土類原子の中でも比較的容易に気化しやすいサマリウム原子を用いた。パリティ非保存測定は、電場を印加した際に誘起されるシュタルク効果による逆パリティ準位間の準位混合との干渉によって、さらに測定しやすくなる。そのため、まず基底準位から候補準位へのシュタルク誘起E1遷移を観測することに主眼をおいた。ところが候補となりうる準位の寿命が予想していた以上に長いために、このシュタルク誘起E1遷移を脱励起光で観測するのが困難であることがわかった。そこで、現有のチタンサファイアレーザーに加えて色素レーザーも用いて、二段階励起によって観測する方法に切り替えた。結果として今年度は、そのための基礎実験および装置開発が中心となった。 二段階励起法の基礎実験については、まず一段目と二段目ともにE1遷移を起こさせ、そこからの脱励起光が既存の装置で観測できるかどうかの実験を行った。その結果、現在の装置で十分観測可能であることがわかった。ただしシュタルクE1誘起遷移を観測するには、二段階目のレーザーパワーがまだまだ不充分であることもわかった。そのため、レーザーパワー増幅用光共振器の製作およびテストを行い、現時点では約100倍程度まで増強できることを確かめた。ただ実際に使用するためには、もう一桁以上増幅する必要がある。またそれと同時にレーザーパワーを増強するには、光共振器と同程度にまで線幅を狭くしなくてはならない。そこでチタンサファイアレーザーの狭線幅化を行い、20MHz程度の線幅を約290kHzにまで狭めることに成功した。このことは、1000倍増強できる光共振器さえ用意できれば、レーザーパワーを1000倍まで増強できることを意味する。 来年度は引き続き光共振器改良を行い、レーザー強度を1000倍程度まで高めるとともに、二段階励起法の二段階目の励起準位のstudyを行う予定である。それらが終了後、サマリウム原子を用いたシュタルクE1誘起遷移の観測を行うことを計画している。
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