チタン(バルクの臨界温度0.39K)薄膜を用いたX線マイクロカロリメータ用温度計(TES;Transition Edge Sensor)の試作を行ない、その性質を調べた。試作したTESはシリコンウェハにチタンと酸化防止用の金を蒸着したもので、チタンは25-180nm、金は20-45nmの範囲で厚みを変化させ、超伝導臨界温度への影響を調べた。 製作したサンプルの抵抗-温度特性を調べたところ、臨界温度が0.4-0.5Kの範囲にあるものが得られ、また、もっとも傾ぎが急なものでα≡dlog R/dlog T-1000を実現できた。これはTESカロリメータ用の温度計として充分な性能である。また、抵抗-温度曲線の傾きαと素子の残留抵抗比(≡300Kでの抵抗値÷4Kでの抵抗値)の間に正の相関が見られることがわかった。これは不純物が少ないものほど傾きが急になり、温度計としてより高い感度を有することを意味している。なお、薄膜効果やチタンと金の近接効果によって超伝導臨界温度はバルクの値から変化することが予想されていたが、本測定では膜厚と臨界温度との相関は見出せなかった。これは薄膜の密度分布や残留応力、境界面の物理状態など、現在の蒸着方法では充分に制御できていないパラメタが存在するためと考えられる。 次に、半導体微細加工技術を応用して、ビームでシリコンピクセルを周囲から支えて熱的にある程度切り離した構造を作り、そこにチタン-金薄膜を形成した。この素子の熱伝導度を測定したところ、0.5Kで5x10^<-8>W/Kという値を得た。したがって同じ構造で0.1Kまで冷やせば10^<-9>W/Kを下回る熱伝導度が実現できると予想される。また、動作温度0.5Kで強い電熱フイードバックをかけてX線マイクロカロリメータとして動作させたところ、22keVのカドミウムのKα線を検出することに成功した。
|