バルクの臨界温度が0.92Kであるモリブデン薄膜を用いたX線マイクロカロリメータ用温度計(TES;Transition Edge Sensor)の試作を行ない、その性質を調べた。試作したTESはシリコンウェハにモリブデンと金をスパッタしたもので、モリブデンは10-50nm、金は0-400nmの範囲で厚みを変化させ、超伝導臨界温度への影響を調べた。その結果、相対的に金の厚みを増やすことにより、近接効果で薄膜の臨界温度が下がることが確認できた。ただし、製作時期によって厚みと臨界温度の関係が異なっていたことから、膜厚以外の要素も臨界温度に大きく影響していることがわかった。そこで、スパッタ時のアルゴンガスの圧力を0.1-0.3Pa(0.5-2mTorr)の範囲で変化させたところ、圧力が低くなるにつれて臨界温度が上昇することがわかった。これはアルゴンが少なくなるにつれて膜が緻密になることを示している。膜厚以外に重要と考えられるもう一つの要素は不純物である。本研究で使用したスパッタ装置はスパッタ速度が0.1nm/sとかなり遅く、また他の研究と併用しているため、不純物が多く取り込まれることになったと考えられる。したがって良質な膜を得るためには、蒸着速度を速めるほか、不純物そのものを減らしたり基板加熱によって水蒸気を取り除く等の工夫が必要である。 並行して、昨年度に引き続きチタン-金薄膜を用いたTESの製作も行なった。こちらは蒸着時の不純物を取り除く工夫をしたところ、チタン100nm、金100nmで臨界温度0.19Kという理想的な性質を持つTESを製作することに成功した。 本研究によって、0.1K程度で動作するTESの製作にめどがたったことから、今後はX線マイクロカロリメータへ応用し、高いエネルギー分解能を有するX線分光器の開発を行なっていく予定である。
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