本研究の平成10年度における研究目的は以下のように設定した。 1。 溶液中で生成されるC_<60>ナノクラスターの構造解明及びサイズ制御。 2。 光照射によるC_<60>ナノクラスターからカーボンナノボールへの物質変換のメカニズムを明らかにしたうえで、カーボンナノボールの構造を予測する。 「研究成果」 溶媒の凍結とともに溶液中で生成されるC_<60>ナノクラスターの構造を調べるために、光照射を行い、常温でも安定に存在する試料を用いて、高分解能透過型電子顕微鏡による観察を行った。その結果、ナノメートル領域における球状のクラスターが観測された。また、C_<60>を可溶媒と難溶媒の混合溶媒中に溶解した場合、溶媒の混合比及びC_<60>の濃度の調整により、C_<60>ナノクラスターのサイズの制御が可能であることやそれらが球状であることなどが発光スペクトルの観測や高分解能透過型電子顕微鏡による観測から明らかになった。これらの結果は、「C_<60>分子の超微粒子」において特異的な安定構造(マジックナンバー)が存在することを強く指示するものである。 また、光照射による「C_<60>分子の超微粒子」からカーボンナノボールへの物質変換のメカニズムに関する知見を得るために、発光スペクトルの測定を行った。光照射の試料においては、「C_<60>分子の超微粒子」の発光スペクトルより高エネルギー側に新しい発光バンドが観測された。固体試料における光照射による化学反応はすでに、2+2開環付加反応として提案されているが、光照射による新しい発光バンドは観測されていない。今回、観測された、新しい発光バンドが高エネルギー側にシフトしていることは、固体試料における2+2開環付加反応よりさらに反応が進んだものと考えられる。上記の高分解能透過型電子顕微鏡による観察結果とあわせて、考察すると、カーボンナノボールの構造は特異的な安定構造(球状)を持つ「C_<60>分子の超粒子」に光照射により分子間に新たな結合を作り、より安定な構造に変化されたものとして理解される。 このほかにも、C_<60>ナノクラスター及びカーボンナノボールなど空間的に制御された新物質群における、非線形光学特性を調べるために、波長可変なパルスレーザー光の試作などを行った。
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