カーボン・ナノチューブの量子輸送現象

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10740153
• 研究機関: 理化学研究所
• 研究代表者: 中西 毅 理化学研究所, ナノ電子材料研究チーム, 基礎科学特別研究員 (00301771)
• キーワード: カーボンナノチューブ / ベリーの位相 / 量子細線 / 有効質量方程式 / フラーレン / k・p摂動 / ランダウアー公式 / ワイル方程式

研究概要

カーボン・ナノチューブは、最近フラーレン分子の製造過程で偶然に発見された半径ナノメートル程度の黒鉛の微細細管である。カーボン・ナノチューブは天然に作られた擬一次元物質であるが、半導体ヘテロ構造で人工的に作られた、従来提案され研究が進められてきた量子細線とは非常に異なっている。それは、ナノチューブが通常の量子細線とはトポロジカルに異なっていることと、2次元グラファイト上で電子が自由電子とは非常に異なった運動をすることに起因する。本研究においては、カーボン・ナノチューブの特に輸送現象について基礎的な物性の解明を進めている。量子輸送現象の理論的な研究の手法として、リカージョン法を用いた数値計算及び、有効質量近似(k-p摂動)を用いた。
本年度は特に不純物ポテンシャルによる散乱を調べ、磁場がなく長距離型ポテンシャルの場合に、電子の後方散乱が完全に消滅する事を示した。すなわち、T行列の無限次まで全ての項がそれと時間反転した項と完全に打ち消し合う。これは、スピン軌道相互作用がある2次元電子系で量子干渉効果により反局在効果が知られている場合と類似しており、反局在効果が最も極端に現れた例と見なすこともできる。また、散乱がないことはニュートリノ的粒子のスピン回転の元で波動関数の位相がベリーの位相に対応して符号を変えることとして物理的に理解された。さらに数値計算により、ポテンシャルの大きさがバンド幅と同程度にならない限り有効質量近似が成り立つことを確認した。後方散乱の消滅は、コンダクタンスの量子化及び、非常に伝導性の良い量子細線の可能性を示唆している。実際、実験的にも多層ナノチューブの量子化コンダクタンスが最近報告された。
また磁場下では不純物ポテンシャルによる散乱があることを示した。これは大きな正の磁気抵抗の可能性を示唆している。

研究成果

• [文献書誌] M.Igami,T.Nakanishi,and T.Ando: "“Conductance of Carbon Nanotubes with a Vacancy"" Journal of Physical Society of Japan. 68・3. (1999)
• [文献書誌] T.Nakanishi and T.Ando: "“Numerical Study of Impurity Scattering in Carbon Nanotubes"" Journal of Physical Society of Japan. 68・2. (1999)
• [文献書誌] T.Ando,T.Nakanishi,and R.Saito: "“Berry's Phase and Absence of Back Scattering in Carbon Nanotubes"" Journal of Physical Society of Japan. 67・8. 2857-2863 (1998)
• [文献書誌] T.Ando and T.Nakanishi: "“Impurity Scattering in Carbon Nanotubes-Absence of Back Scattering-"" Journal of Physical Society of Japan. 67・5. 1704-1713 (1998)
• [文献書誌] T.Nakanishi and T.Ohtsuki: "“Numerical Study Inelastic Scatterings by Time-Dependent Random Potentials in Two-Dimensional Systems"" Physica B. 249-251. 801-804 (1998)
• [文献書誌] T.Nakanishi and T.Ando: "“Scattering by Topological Disorder in Connected Carbon Nanotubes in Magnetic Fields"" Physica B. 249-251. 136-139 (1998)