科学研究費補助金交付時に、平成10年度の研究計画として主に次の課題を取り上げた。[1]マンガン酸化物における強磁性金属相と絶縁相近傍の軌道状態の解明、[2]軌道状態を観測する手段である異常X線散乱法の理論の精密化と実験との比較。[1]に関しては、今年度有限温度、有限キャリアー濃度において軌道状態を計算する方法を開発し、これに基づいて相図の作成と物理量の計算を行った。得られた計算結果は、最近中性子散乱法等の実験により発見された絶縁相近傍の新規な強磁性相の出現と、この相における磁化等の振る舞いを説明するものである。また絶縁相と金属相の間で軌道の自由度に由来する相分離状態が理論計算から予言され、マンガン酸化物で見られる巨大磁気抵抗効果と密接な関係があるのではないかと現在考察を行っている。これらの結果は二つの論文にまとめられ、Physical Review LettersとPhysical Review Bに投稿中である。一方課題[2]に関してであるが、前年度に構築した観測の基礎理論を元にその精密化と拡張を行った。具体的には原子散乱因子をもとにX線の散乱強度の偏向依存性を求め、これを様々な軌道秩序状態で計算を行った。その結果、ある反射点においては偏極依存性を利用することで軌道秩序の型を同定することが可能であることが明らかとなった。この理論的な予想を実証すべく、現在実験グループとの密接な共同研究が進行中である。これら結果は雑誌論文並びに図書に発表済みである。(「11.研究発表」を参照)。
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