「四重極近藤効果」は非クラマース二重項基底に伴うマルチチャンネル近藤効果の一種で、たとえば電気抵抗が+logTで降下し更に低温ではいわゆる非フェルミ液体状態が予想されているものである。しかしながら実例はほとんどなく(U_XTh_<1-X>)Ru_2Si_2(x【less than or equal】0.07)が最有力候補であると言われているのみである。この現象は通常のf電子系近藤効果と同様に単サイトの効果であるので、高濃度化(周期化)した場合の振る舞いについて興味が持たれる。しかしながら、URu_2Si_2は秩序状態を持つためこの目的には合致しない。 このような背景の中、近年Yatskarらのグループは低温でPrInAg_2の電気抵抗/比熱/帯磁率の測定を行い、この物質が四重極近藤効果を起こす周期系の最初の例である可能性を指摘した。PrInAg_2はホイスラー(立方晶)型金属間化合物で、〜1K付近より低温側で電気抵抗/比熱に異常がみられるものの、50mKまで磁気秩序状態がないことが確認されている。 本研究ではPrInAg_2の各種物理量の低温での磁場・圧力応答を調べ、「この物質が四重極近藤効果を起こす周期系であるか否か」を議論する。さらに高濃度系固有の性質についても議論する。 本年度は、まず常圧下の電気抵抗測定の追試を^3He冷凍機(〜0.5K)で直流法で行ない、また希釈冷凍機(〜60mK)で交流法で行った。その結果Yatskarらのグループの結果をほぼ再現できた。更に磁気抵抗測定を行なったところ、ヴァンヴレック常磁性であるにも関わらず大きな(正の)磁場依存がみられた。これらの実験は従来型のロックインアンプでは精度が足りず、本研究費で購入した18bitデジタルロックインアンプを用いることにより希釈冷凍機温度での測定に耐えうる程の微小電力で高精度のデータを得ることが出来た。 来年度は、電気抵抗の圧力依存並びに、比熱・帯磁率測定を行う予定。
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