研究概要 |
Sr_2RuO_4超伝導体で期待されている異方的なp_x±ip_y対称性の超伝導に関して、境界と磁場の効果を理論的に調べた。 境界は一般的には散乱体としてはたらき、異方的超伝導体に対しては超伝導を局所に破壊し、オーダーパラメータの空間変化を引き起こす。高温超伝導体では(1,1,0)表面で超伝導が壊され、壊された電子は表面でゼロエネルギーの束縛状態を形成することが以前の研究で知られている。これは実験的にもミッドギャップ状態として観測されている。これに対して、本研究で考えているp_x±ip_y波状態は時間反転対称性を破っているため、束縛状態の位置はゼロエネルギーからずれる。このずれは電子の運動量に対してp_yの変化をするため、それぞれの運動量の電子からの寄与をすべてたし合わせた状態密度は、表面において超伝導ギャップ内が平になるという特徴が明らかにされた。また、自発的に表面電流が流れ、バルクではマイスナー効果によって遮蔽される様子を明らかにした。また、外から磁場を加えることにより、ギャップエネルギーよりも少し高いエネルギーの位置での状態密度が影響を受けることがわかった。 p_x+ip_y波状態にはエネルギー的に縮退したp_x-ip_y波状態があり、実際の物質ではこの二つの状態がドメインをつくり、多くのドメイン壁が存在するものと考えられている。しかし、このドメインを直接観測した実験はいまだない。そこで、本研究ではこのドメインでの電子状態も理論的な立場から調べた。その結果、バルクの状態とは異なり、ドメイン壁の周辺では超伝導ギャップ内にも状態が現れ、ゼロエネルギー近傍で小さなギャップが開いているように見えることがわかった。この小さなギャップは、ドメイン壁に沿って流れる電流のためにつくられた微弱な磁場によるものである。 以上の結果は走査トンネル顕微鏡(STM)で観測されるトンネルスペクトルのデータと直接関係するもので、このSTMを用いた実験に対する理論的な指針を与えるものである。
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