| 研究概要 |
本年度は,有機導体の電子相関と電荷変調(価数秩序)を研究するために,低温X線散漫散乱カメラの制作をおこなった.これは,オリジナルに開発した装置であり,1)低角でも高角でも高S/N,2)試料回転可能,3)多数の反射点を一度に撮影可能,をすべて満たす.これまで,これらを1ヶ〜2ヶ満たすものは存在したが,すべてを満たすものは存在していない.1)〜3)を満たす事で,微弱信号を単結晶を用いて迅速に測定する事が可能になり,電荷変調や価数秩序の解析がおこなえるようになった.
本年度の研究で明らかになった結果をごく手短に述べる.1)(DIDCNQI)2Cuの低温高圧絶縁状態,低温高圧で微弱信号の検出に成功し,この物質の絶縁状態が理論的予測とは違う2kFCDWとCuの価数秩序状態であることを明らかにした.2)κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Xの低温絶縁相 この物質では,低温でのダイマー性の変化が電子相関を変化させ,d波超伝導からモット絶縁体までの基底状態を決定する.3)(DCNQI)2Agの電荷変調と4kFCDW最近接クーロン相互作用Vの効果により,電荷秩序相が形成される場合と,短距離クーロン反発Uによる4kFCDWが形成される場合の両方が存在する.4)θ-(BEDT-TTF)2CsM'(SCN)4の電荷変調と2kFCDWこの物質でも,Vにより電荷秩序相が形成される.しかし競合するのは2kFCDWである.これはこの物質が2次元的な性質を持つ事で説明可能である.5)(TTM-TTP)I3での2KF超格子 この1/2フィリング物質の基底状態は,2kF超格子をともなう非磁性絶縁状態である.
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