Pb、Nb、BKBOなどからなる平面接合非対称型SIS'ジョセフソン接合を作成し、その電圧-電流特性を詳細に調べた。その結果、Nb-NbO_x-Pb接合についてその接合電流に通常のオーム則に従わない成分が含まれていることを確認した。これは印加電圧に対して60μVを中心としたローレンツ型のピークを形成し、超伝導秩序変数の振幅揺らぎに起因するものとして理論的に予言されているものとよく対応していることがわかった。これを基に秩序変数の位相ゆらぎ(ゴールドストーンモード)の観測実験を行った。しかし、磁場中観測で得られたデータの再現性はまだ十分ではなく、criticalな議論に耐えるデータの取得までには至らなかった。この観測と並行して本課題の最終目的であるd波超伝導体による観測実験に取り組んだ。まず、一連の化学エッチング処理によってYBa_2Cu_3O_y単結晶(001)表面に数ミクロンの大きさを持つ島状の微小エリアを作成、さらにこれにSTMナノリソグラフィによる微細加工を施し0.1ミクロン程度の孤立エリアとした。このエリアと下部の結晶本体との接合は微小部分の有限サイズ効果により弱められており本質的に平面型ジョセフソン接合と見なされる。またこの微小部分は酸素欠損により結晶本体よりもその転移温度は低く、下部の結晶本体との間で形成された接合は本研究で求められている平面接合非対称型SIS'接合そのものと考えられる。これは上部微少部分にSTM探針を接触させてその電圧電流特性を測定することで実際に確認された。この手法の利点は結晶の層状構造の一部を接合として用いるのでピンホールなどの欠陥が生じにくくかつ温度変化に対して極めて安定ということにある。今後はこの微少サイズ接合に関して温度磁場依存性を調ベ、超伝導秩序変数のゆらぎ効果およびその中に含まれるゴールドストーンモードの検出に取り組んでいく。
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