タンパク質モデルにおける、折り畳み問題と、それとは逆に、与えられた立体構造へと安定に折り畳むアミノ酸配列を探す「逆折り畳み問題」に関する研究を行った。逆折り畳み問題は蛋白質の設計でもあり、新薬開発などへの応用も期待されている。ホモロガス・シーケンスの存在からも明らかなように、ある構造へと折り畳む配列は一つとは限らず、一般に逆折り畳み問題は複数の解を持つ(解がない場合もある)。解の個数は、設計の容易さに関係するので、デザイナビリティと呼ばれている。それは、ランダムな配列から正しい配列への進化的な到達のし易さでもあり、蛋白質の「進化的安定性」にも関係する。折り畳み問題と同様に、逆折り畳み問題も、モノマー数が増大すると可能な配列の数が爆発してしまい、単純なしらみづぶしで解を得ることは不可能になる。本課題においては、このデザイナビリティとタンパク質の折り畳みダイナミクスの熱力学的および動力学的性質との関係を調べた。特に、蛋白質の進化的安定性と機能発現(折り畳み)の安定性との間の関係が、モデルによらない一般的な性質なのかどうかという問題を調べた。これはまた、蛋白質の天然構造はどのような特徴を持ち、それが進化の過程でどのように形成されてきたかという、天然構造の創発的進化の問題を明らかにするということにも関係する。具体的には、逆折り畳み問題を解くことで得られるデザイナビリテイを選択圧として、各構造を仮想的な「種」とみなす進化ダイナミクスのシミュレーションを行った。特に、構造そのものの特徴(対称性など)、活性サイトの有無、そして所期の目的である、熱力学的・動力学的安定性、すなわち、天然構造と励起状態との間のエネルギー・ギャップがどのように変化していくか、などに注目する。この際、研究者らが近年開発した、逆折り畳み問題を効率的に解く統計力学的・計算物理学的手法を用いた。
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