ネマチック液晶に電場を印加することで発生する電気対流現象(電気流体力学的不安定性)は、非平衡開放系における散逸構造の典型例として幅広く研究が行われている。特に近年は、対称性の観点から、棒状液晶分子が電極に対して垂直に配向したホメオトロピック配向系に注目が集まっている。このようなホメオトロピック系に電場を印加すると、まず初めにフレデリクス転移によって液晶分子(その単位方向ベクトルをディレクターという)が一定角度傾く。このとき系の連続回転対称性が自発的に破れるため、その回転(みそすり)運動はゴールドストーン・モードとして振る舞う。さらに高い電場を加えると、電気流体力学的不安定性によって系内に短波長の対流モードが生じる。つまりホメオトロピック系は、ゴールドストーン・モードと対流モードが共存する系として注目を浴びている。 また、電場と垂直な方向に磁場を印加することによってディレクターの回転自由度を抑えることができる。本研究では、磁場中で電気対流を発生させ、さらに磁場中で試料を回転させることにより(波数ゼロの)ディレクターの回転モードを強制的に励起させる実験研究を行った。ディレクタをある角度回転させることは、相対的に波数ベクトルを回転させることに相当する。回転後の振る舞いを観察した結果、ジグザグ不安定性やクロス・ロール不安定性を示す場合やパターンが不安定になって完全に消えてしまう場合などに分けられ、その観察結果に基づいて安定性ダイヤグラムを描くことができた。このような安定性ダイヤグラムは、ホメオトロピック系電気対流の弱非線形ダイナミクスの総合的な理解に重要な情報を与える。
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