破壊の動力学と統計法則の理解・解明は、今や多くの分野において急務の課題となっている。このため、工学分野を中心として現象論的な理解が進みつつあるが、理学的にはやはりミクロな面、原理的な面まで理解されることが必要不可欠であると考えられる。 この問題に対するアプローチとして、破壊という急激な変化によって物質が発光する可能性を考え、これに一定の条件下で破壊の進展速度を制御可能である準静的な破壊を利用することによってレイリー波の速度程度で破壊が進行する高速破壊に比して長時間にわたる測定を可能にすることを試みた。 まず、平成10年度は第1年目として破壊発光を前提とした準静的破壊のための実験系の作成に重点を置いた。破壊のための中心部を破壊発光に対応するように改良し、撮像素子としてCCDを用いることとした。 最初にこのCCD撮像素子を用いて高速破壊によって発光すると考えられる物質(一例として氷砂糖)の破壊を観測することによって、この実験系で破壊に起因する発光をとらえることが可能であることを確認した。 次に破壊試料として薄く細長いガラス板を用いてこの系によって発光の測定を試みた。しかしながら、ガラスにおいては未だ発光が観測にかかっていない。準静的破壊では破壊の進展速度が遅く単位時間あたりに破壊によって生成される新たな面が小さいため、単位面積あたりでは観測可能な発光強度であっても観測にかかりにくくなっていることも考えられる。 このため、より高感度あるいは長時間露光に耐える撮像素子を用いた観測への変更を行うこと、並びに不透明ではあるが発光波長の見積もりを行いやすい単結晶シリコンを破壊試料に併用することを計画している。
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