鉄クラスター貯蔵物質フェリチンのモデル物質であるナフィオンの放射光核共鳴準弾性・非弾性散乱の研究を行った。フルオロカーボン系のイオン交換膜ナフィオンは、その側鎖のスルホン酸基で囲まれた10Å程度の領域に陽イオンを取り込むことが知られている。このとき、この領域内でイオンがどのような運動を行っているかを調べるために、Feイオンをプローブとしてナフィオンフィルム内にドープした。このときナフィオン内においてはFeイオンと水分子とが存在しているが、メスバウアー効果測定によりFeイオンが水和したFe^<2+>として存在していることを確かめ、大型放射光施設SPring-8の核共鳴散乱実験ステーションBL09XUで核共鳴準弾性・非弾性散乱測定を行った。拡散運動を行っている系についての核共鳴散乱の理論は、1960年にSingwi等によって発表されているが、限定された領域での拡散を取り扱えるように核共鳴準弾性散乱の理論的取り扱いを拡張し、数値計算ソフトウェアについての開発も行った。これらを用いて実験結果の解析を行ったところ、Feイオンは局所的には純水中における場合と同程度の拡散運動をしているものと考えられる結果が得られている。 また放射光核共鳴散乱による測定可能核種の数を増やすための研究も行い、塩化カリウム(KCI)中における放射性原子核^<40>Kの第1励起準位の放射光核共鳴励起に成功し、その寿命と共鳴励起エネルギーの測定を行った。
|