密度行列のランダム行列理論は、外界との相互作用をもつ量子系の解析において有用であると期待され、数学的には、直交多項式に関係したランダム行列アンサンブルと密接な関連をもっていることが知られている。これらのランダム行列モデルをパラメータ依存性のある系に応用できるように拡張するためには、ブラウン運動モデルを構成するのが標準的である。今年度の研究においては、密度行列のランダム行列理論の動的な拡張を意図して、直交多項式に関係したアンサンブルのブラウン運動モデルの研究を行った。ブラウン運動するランダム行列の固有値相関の一般的な表式を導出し、また、固有値が互いに相関をもっていない状態からランダム行列に特徴的な相関をもつ状態へのブラウン運動による遷移が起こるときに、どのような動的相関が生じるかを明らかにした。これにより、規則的な量子系からカオス的な量子系への遷移を記述する可能性のあるランダム行列モデルの振舞いへの理解が進展した。密度行列のランダム行列理論を微視的に正当化するときには、ハミルトニアン行列の場合と同様に、量子系の半古典論を用いることになると予想される。規則的な量子系からカオス的な量子系への遷移を考えると、通常の半古典論であるGutzwillerのトレース公式の方法の破綻が問題になるが、これを解決する方法を量子標準写像を用いて考察した。これにより、遷移を記述する半古典論への理解も進展させることができた。
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