北太平洋西部の戦前において、観測手法の変遷によるバイアスが無視できないバケツまたはエンジン採水による従来の海面水温のグリッドデータの精度を、そのようなバイアスが無い採水ビンおよびBTデータに基づく海面水温のグリッドデータを作成して評価した。従来のグリッドデータの解像度は緯度経度5度であり、今回作成したデータは実効解像度が2〜3度(グリッドの間隔は0.5×0.5)である。この新たなデータによって、日本を中心とする1940年代のSSTの温度上昇の従来の推定は、過大評価であることが強く示唆された。このことは北太平洋の気候レジームシフトおよび温暖化研究において大きな意味を持ち、今後従来提案されているSSTの観測データの補正方法よりも高精度の補正方法を開発する上でその道を開くものである。 また、既存データの解析から、北太平洋のレジームシフトは位相同期する50年変動と20年変動とが同期していることを明らかにした(Minobe 1999)。これらの50年変動と20年変動との同期は、北太平洋上の気圧とSSTおよびアラスカの地上気温に顕著に見られる。また50年変動は北太平洋および北極海上の冬季の経年変動の振幅変調をもたらしていることを報告した(Minobe and Mantua 1999)。 数値実験ではわが国で初めてマイアミ大学等密度面座標海洋モデルを用いた研究を行い、1/3度の水平解像度で気候値に対する海洋応答を調査し、観測された風応力を与えて40年間の長期積分を行った。気候値に対する応答では、年周期のロスビー波がシャツキーライズ・ヘスライズなどの海嶺と相互作用し振幅が強化される様子を、初めて北太平洋の海洋大循環数値モデルで再現した。
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