1987〜1996年の10年間に亙る33地点の定期ラジオゾンデ観測データを基に下部成層圏重力波を解析した。重力波のポテンシャルエネルギー、運動エネルギーは共に1年周期で変化し、北極では冬に、南極では春に極大が見られた。南半球域では春の昇温に伴い大気安定度の高い層が上から下に移動するが、重力波のエネルギーの春の極大も同様で、常に高安定度層上に存在する。この春の昇温は南極全体で一様に同時に起るのではなく、高温域が135Eより45Wに向かって広がり、高安定度層は合わせて水平に移動する。重力波のエネルギーの極大の時期は各地点での高安定度層の出現時期と一致していた。つまり重力波の卓越は大気の高い安定度と関連がある。その理由に関する理論的考察も行なった。つぎに、重力波伝播をホドグラフの高度変化の解析により調べた。北極域では殆んどの重力波のエネルギー伝播は上向きであるのに対し、南極域では冬と春には下向伝播の割合が相対的に大きいことがわかった。また、北極域では、水平には平均風と逆向き伝播が卓越するのに対し、南極域では、地点により卓越水平伝播方向が異なっていた。次に、下部成層圏重力波エネルギーと背景風との相関を調べた。北極域では地上風との相関が高いが、南極域では成層圏の風との相関が高かった。以上の結果は北極域では地形性重力波が卓越し、南極域では成層圏に起源を持つ重力波が存在することを示唆する。南極域の起源としては極夜ジェットが考えられる。この結果は、最近の高分解能気候モデルを用いた研究結果とも調和的である。
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