1.斑晶伸長軸解析に基づく岩脈マグマ流動方向 岩脈が集中して分布する奈良県川上村中奥川流域と同じく吉野町吉野川流域の各3枚計6枚の岩脈について、斑晶・石基・包有物の伸長軸方向を測定しマグマ流動方向を推定した。測定した岩脈は、昨年度K-Ar年代測定を行った玄武岩・玄武岩質安山岩・石英斑岩の3枚を含め、玄武岩(1枚)・玄武岩質安山岩(3枚)・デイサイト(1枚)・石英斑岩(1枚)からなる。走向はいずれも東西性である。壁面近傍試料の測定の結果、マグマはいずれも東から西への流動成分をもち、岩脈マグマは貫入初期に東方から供給されたことを示す。 2.紀伊半島中央部の浅所火成活動 昨年度と今年度の研究結果から、紀伊半島中央部における浅所火成活動について以下のことが明らかとなった。 (1)岩脈マグマの多様性と同時性 分布する岩脈の岩質は流紋岩質〜玄武岩質と非常に多様である。またこれらは大部分が15Ma頃に形成された。その後の調査で、11Ma頃に形成された岩脈は玄武岩と流紋岩からなる複合岩脈であることが明らかとなった。この時期においてもマグマの多様性が見られる。このより若い時代の火成活動の詳細はほとんどわかっておらず、今後の調査が必要である。 (2)マグマ供給源の位置 上記のような多様なマグマの供給源は熊野・大峯酸性火成岩類の分布域にはない。岩脈マグマの流動方向はマグマが東から供給されたことを示す。しかし、台高山脈一帯には高見山酸性岩以外に目立った火成岩体あるいは火山体はなく、岩脈を供給したマグマだまりは活動的な火山体を形成しなかった可能性がある。一方で、この地域で大規模に分布する火砕岩岩脈には溶結火砕岩が大量に見られ、火山活動の直接的な表れである可能性が高い。すなわち、紀伊半島中央部の外帯における火成活動解明の鍵は火砕岩岩脈であると考えられる。
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